管財人の持つ否認権、詐害行為否認と偏頗行為否認を詳しく解説
2021/06/21
前回お話した破産管財人の持つ否認権がどのような行為に対して行使されるのか説明したいと思います。
1,詐害行為否認
①破産者が破産債権者を害することを知ってした行為の否認
財産を処分すると破産債権者に配当がされなくなってしまう(破産債権者を害する)と知っていながら、財産を減少させる行為です。
ただし、破産者が財産を処分したことによって利益を受けた者(受益者)が、破産債権者を害することを知らなかった場合には否認権を行使することは出来ません。
②破産者が支払の停止又は破産手続開始の申立てがあった後にした破産債権者を害する行為の否認
①と同様に破産債権者を害する行為です。
①との相違点は、行為の時期が「支払の停止又は破産手続開始の申立てがあった後」に制限されていること、破産者が破産債権者を害することを「知って」いる必要が無いという点です。
③詐害的債務消滅行為の否認
破産者が借金返済等のためにした行為が破産債権者を害する場合の行為です。
例えば、AがBに100万円の借金を返す代わりに、Aの500万円の車を渡した場合です。
100万円の借金は無くなりますが、500万円相当の車も無くなっているため、差引400万円の財産が減少することになります。
ただし、この行為を否認するには、破産者が破産債権者を害することを知ってした行為であること、若しくは、破産者が支払停止等の後にした破産債権者を害する行為であることが必要です。
④無償行為の否認
支払停止等があった後又はその前6ヶ月以内に破産者が何の対価も受けずに、財産を処分してしまう行為です。
例えば贈与等があたります。
⑤破産者が相当対価を得てした財産の処分行為の否認
破産者が財産を隠す目的で、破産者名義の不動産等を売却して現金に代えるような行為です。
例えば3000万円の不動産を売却して、3000万円の現金に代えた場合、財産額としては3000万円で変わりはありませんが、不動産という財産に比べて、現金はどこへでも持ち運びが出来、隠すことも簡単であることから、財産隠しの危険性があると判断されてしまいます。
ただし、否認権の行使には、この行為が、財産の種類の変更により隠匿等の処分をするおそれを現に生じさせるものであること、破産者に隠匿等の処分をする意思があったこと、受益者が破産者の隠匿等の処分をする意思を知っていたことの全てを満たしていることが必要です。
2,偏頗行為否認
①破産者が支払不能になった後又は破産手続開始の申立てがあった後にした偏頗行為の否認
既存の債務についてされた担保の供与(財産に抵当権や所有権留保等の担保を設定すること)や債務の消滅(返済)によって特定の債権者にのみ利益を与える行為です。
否認権の行使には、破産者が支払不能であったこと又は破産手続開始の申立てがなされていたことを債権者が知っている必要があります。
②破産者が支払不能になる前30日以内にした非義務的偏頗行為の否認
支払期限が来ていないのに返済をしてしまった等、法的義務の無い偏波行為(=非義務的偏頗行為)については、否認権行使の範囲が拡大され、支払不能後だけで無く、支払不能前30日以内の行為も対象とされます。
ただし、非義務的偏頗行為の相手方債権者が、破産債権者を害することを知らなかった場合には否認権は行使出来ません。